【導入事例 Vol.27】
岡山県立大学  准教授 福嶋 丈浩

■経歴

1991年に大阪大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、株式会社富士通研究所に入社し、AlGaInP系可視光半導体レーザーの研究開発に従事。1994年、岡山県立大学情報工学部に着任。スタンフォード大学および(株)国際電気通信基礎技術研究所の客員研究員も務め、2007年より現職。

■先生の研究について、教えてください。

我々の研究の主な応用先は半導体レーザーです。身近なところではレーザーポインターや、CD・DVD・Blu-rayといった光ディスクのデータの読み書きに使われています。その他にも高速光ファイバー通信や光計測器の光源としても利用されています。このような半導体レーザーをより高性能にできないかということについて、応用のベースになる基礎的な研究に取り組んでいます。

■より高性能なレーザーとはどのようなものでしょうか?

現在実用化されている半導体レーザーは、光を閉じ込める共振器が一次元的な構造になっています。どういうことかと言いますと、対面する平行な二つの鏡で光を閉じ込める構造が用いられています。共振器に閉じ込められた光は二つの鏡の間を往復する間に増幅されて、その一部が鏡から外に取り出されます。つまり光はレーザーの中を一方向にしか進めません。それを周囲が鏡で覆われた二次元の形をした共振器にすると、いろいろな方向に光が進むことができるようになり、バラエティーに富んだ光の放射が可能になるわけです。その特性を利用すれば、光の閉じ込め状態や出力ビームの向きをコントロールすることが可能になり、半導体レーザに様々な機能を持たせることができるのではないかと考えています。

従来の半導体レーザや光ファイバーが長手方向に光を伝えるのに対して、我々が研究している二次元共振器は鏡に囲まれた面内に光を閉じ込めるイメージですね。半導体微細加工技術の進歩により、数十ミクロンの大きさの微小光共振器半導体レーザーの製造が可能であり、スタジアム形や卵形など様々な形状の半導体レーザーについて特性を調べています。

■二次元の共振器を使うと、どのような新しい技術が可能になるのですか?

我々が提案しているのが、レーザービームのスイッチです。従来の半導体レーザーは、決まった方向にビームを出力し、その向きを切り換えることはできません。光を閉じ込める共振器を二次元にすると、形状を工夫することで直線の経路に沿って光を閉じ込めたり、菱形の経路に沿って光を閉じ込めることが可能になります。その結果、一つの半導体レーザーから向きの異なるビームを取り出すことができます。このようなビームのスイッチが実現すれば、一つのレーザーで多点の光計測を行ったり、状況に応じて光信号の送信先を切り換えるといった柔軟な処理が可能になると思われます。

■研究の過程でコンピューターをどのように活用していますか?

半導体レーザーの製作には時間と費用がかかります。我々の大学には半導体レーザーを製作する設備がありませんので、企業や研究所と協力して研究を進めることになります。レーザーを製作する前に共振器形状の違いによって光線の経路や光の閉じ込め状態がどのように変化するか予想を立ててシミュレーションを行います。最近はシミュレーション技術が向上し、計算機を使って事前に特性が把握できるようになったので、研究開発の効率が非常に良くなっています。

■研究の今後の展望について教えてください。

二次元の共振器に閉じ込められた光の状態を計算するには、共振器を光の波長よりも十分小さな要素に分割して数値計算を行います。そのため、計算機にはより多くの記憶領域が必要になります。今回、1テラバイトまでメモリーが増設できるワークステーションをご紹介いただきました。これまでは、実際のサイズより小さいサイズでシミュレーションを行って予測を立てていましたが、メモリーの大きなコンピューターが導入できると、実物に近いサイズで解析ができるようになり、今までより精度の高い予測が可能になります。

企業の研究所で赤色半導体レーザーの開発に従事していたころから、レーザーの物理現象に興味を持って研究を続けて来ました。二次元共振器については、明らかになっていないことも多いので、計算機を駆使して物理現象を探求したいと考えています。また、二次元共振器の新しい応用についても検討を進めて行きたいと思います。