【導入事例 Vol.53】
岡山大学 助教 井上 良太

■経歴

2020年に東北大学大学院工学研究科 電気エネルギーシステム専攻の博士課程を修了。大学院時代には独立行政法人日本学術振興会で特別研究員として3年間勤務。2021年からは岡山大学学術研究院で助教となり、超電導応用工学研究室にて非接触給電について研究、学生の指導にあたっている。

■先生の研究分野である「超電導」について教えてください。

 金属に電気を流すと、必ず電気抵抗により金属が発熱します。例えば、発電所で発電された電気も送電ケーブルを通って消費者に届くまでに一部は熱となり、電気エネルギーの損失になってしまいます。もし金属の電気抵抗がゼロになれば、エネルギーの損失が大幅に抑えられて最大限に活用でき、さまざまなエネルギー問題の解決にもつながります。そのような金属を超電導体といいます。

 電気抵抗がゼロになることに加えてもう一つの特性は、「強い磁場が発生する」という点です。この特性を利用したのがリニアモーターカーです。重量のある車体を浮かせるには強い磁場が必要で、銅コイルでは発熱し強い磁場が作れないため、超電導材料のコイルを使用して車体を浮上させ、時速500kmという高速走行を可能にします。また、医療機器のMRI(磁気共鳴断層撮影装置)が人体を精密に画像化できるのも、超電導体が作る強い磁場によるものです。

 超電導体を作るには、金属物質をマイナス200度台の超低温で冷やし続けなければなりません。1911年に超電導現象が発見されてから今日までに技術が進歩し、超電導化に向いている金属物質が見つかり、実用化が進んでいます。

■先生が超電導に興味を持ったきっかけは?

 もともと、鉄腕アトム、ロボットを作りたくて奈良工業高等専門学校の電気工学科に入学したんです。実験が面白く、電気と関連のある超電導に興味が湧きました。子どもの頃、電車の図鑑が好きで鉄道模型を動かしている電気に興味を持ち、図鑑に載っていた超電導リニアもずっと頭の片隅にあったんですね。そして高専で、超電導と電気に深い関わりがあることを教えてもらい、子どもの頃に気になっていたことを思い出したんです。そして、もっと深く追究したくて東北大学の大学院へ進学しました。

■超電導分野のなかでも現在特に力を入れている研究は何でしょうか。

 非接触給電の研究です。携帯電話の「置くだけ充電」と同じ原理を使って、電気自動車(EV)や電車など大型の機器に非接触で充電することに応用しようとしています。銅コイルを使用したり、コネクターで電気自動車に充電したりする方法はすでにありますが、充電に60分とか300分とか非常に時間がかかること、これは電気自動車が今一つ普及しない要因になっています。銅コイルに電気を流すと発熱が激しいため、たくさんの電気を流して急速充電することができません。そこで私たちは、超電導を採用することで短時間充電が可能になるのではないかと考えました。実現すれば10分ほどで充電できるので、電気自動車は急速に普及するのではないでしょうか。

■非接触給電の研究にワークステーションはどのように活用できますか。

 非接触給電で短時間の充電を可能にするには、コイル形状やエネルギーの損失に関する計算を大量かつ正確に行いたいので、そこにワークステーションが必要になってきます。ワークステーション内でさまざまなコイル構造を設計し、そこに電気を流すとどのような磁場が発生するか、どの程度の損失があるかをシミュレーションします。その結果を受けて、最適なコイルを実際に作ってみることになります。

■ワークステーションはスムーズに導入できているでしょうか。

 導入時には細かいところまでディスカッションしながら要望を伝え、難しいお願いもさせてもらっています。さまざまな計算ができることに加え、メモリを増やしたい、CPUをもう少し早いものにしたいといった改良点の要望も伝え、担当の方とやり取りして用途に合ったタイプを提案してもらっています。
 性能はとてもいいですね。処理スピードが速く、やりたいことに対して反応がいいです。データ保管のためにNASも導入していますが、使い方がわからないときなど、初歩的な相談にものってもらえます。

 岡山大学に赴任してからはワークステーションについても勉強し、研究に合った使いやすい構成もわかってきました。研究室の学生もリモートでアクセスできるようにしていますが、使いやすいと評判で、ちょっと説明しただけで使いこなしています。研究、実験の過程で解決したい問題が出てきたら、すぐにでも導入したくなるので、その都度相談させてもらっています。あとは価格の交渉ですね。

■今後の展望は?

 今後は電気自動車の非接触給電を実現させるため、さらに研究と実用化へのアプローチを進めていきたいです。私たちの研究の最大の特徴は、超電導材料のコイルを使用する点で、実用化には膨大な費用がかかるため、やってみたけど失敗したではだめなわけです。解析上は可能でも、実際に作っていく過程では、さらに繰り返し計算する必要があり、損失がどうなるかなどを前もってワークステーション内で割り出してからでないと実物は作れません。コストも考えて事前にシミュレーションして、成功率の高いものを採用することになります。計算、実験、解析を繰り返し、最終的に形にしていく。そこにはワークステーションが不可欠です。