【導入事例 Vol.54】
九州大学 教授 廣瀬 慧様
■経歴
2007年九州大学 理学部数学科卒業、2008年同大学院 数理学府数理学専攻 修士課程を早期修了、2011年には博士後期課程を修了し、2011年から5年間にわたり大阪大学大学院 基礎工学研究科数理教室で助教を勤める。
2016年から九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 准教授、2022年からは同研究所の教授となる。
■先生の研究分野の1つである「因子分析」について教えてください
統計学で重要なのは、解析をして結果を出すための「手法」になります。そこで因子分析やグラフィカルモデルなど、多変量解析における新たなスパース推定法の開発に取り組んでいます。
特に因子分析は学生時代から興味のある研究で、例えば再生エネルギーや電力など社会が抱える問題を因子分析につなげて解析していく私独自の手法として力を入れています。
因子分析では各データの背後にある共通要素(因子)を見つけていくのですが、これをどんな社会問題にも使えるように数式を一般化するとパラメーター(値が変化していく変数)が100も1000も増えてデータをたくさんつくることができるようになる分、計算に時間がかかるんです。しかも、計算のアルゴリズムをスピードアップしつつ精度の良いものをつくろうとすると、プログラムを改良しないといけないため手間と時間がかかってしまいます。
実験段階で計算やシミュレーションをもっとスピーディーに進めたいときは、サーバーの中のCPUを増やすと効率が上がるので、アプライドのサーバーを導入しました。並列演算を効率的にシミュレーションすることで正確な計算を素早くできるため処理速度が一気に上がり、実験のスピードも向上しました。
■先生が数学の研究者になったきっかけを教えてください
導きたい結果を仮定してプレゼンしていく数学の証明問題が好きで、大学では数学科に進みました。10代の頃から常々“私が社会に出てできることって何だろう”と自分に問いかけていたのですが、大学で応用数学という世界に触れたとき「私の好きな証明を使って社会に貢献できるかもしれない」と可能性の光が見えたような気がしました。
高校までの数学ではイメージがつきにくいかもしれませんが、AIなどの先端技術を支えるには数学の力が不可欠です。
「世界中の人々の暮らしに役立つ汎用性の高い手法づくりを、数学というツールを通して取り組んでいきたい」—— これが、今も変わらない私の研究ベースとなっています。
■因子分析による抽出法を一般化することで、世の中にどんな影響を与えるのでしょうか?
MRI装置を用いて脳の活動を調べる「fMRI」という方法があります。脳のネットワーク活動を解析するには因子分析は欠かせない手法ですが、因子分析を一般化することによって画像データの特徴を捉えることが可能になるなど、応用ができることが判明しました。
また、気候に左右されやすい再生エネルギーは、因子分析を使って解析し電力のパターンを見ることで、“明日はこの場所の(再生エネルギーの)電力が足りなくなる”など、電力需要のマネジメントが可能になります。
因子分析の数式を一般化することは、世界中の技術者と技術者が持つポテンシャルを上げることにつながると信じ、研究を重ねています。
■先生の研究の先にある展望について教えてください
私が目指しているのは、世界中の人たちの暮らしが豊かになるためのソフトウエアの開発です。そのためには、私たちの暮らしに適合する手法をシミュレーションで補いながら数学的に証明し一般化ができれば、その開発ソフトを提供することで、前述の電力の話もそうですが、世界中の各技術者が担当している仕事の予測技術の下支えになればと願っています。
例えば住宅業界に目を向けると、1つの建物を建てるためには木材やガラスなど材料が必要ですよね。しかし既に世の中にある材料だけでなく、耐火性の強い木材や一見ガラスに見えるけれど強度の高い金属ガラスなどあれば、より安全で安心に快適に暮らせると思いませんか?
このように、従来にはない特性を持つ“材料”を生み出すことで、日本のものづくりや技術の発展にわずかでも寄与できればと考えています。
これら物質と物質を組み合わせてつくる新素材づくりは、現在AIで行なうことが主流ですが、AIの能力をもっと高めることができれば欲しい素材を今よりももっとつくりやすく、手に入りやすく、そして将来的には低コスト化を目指すことができると思います。
私は開発した因子分析のソフトウエアを誰もが自由にダウンロードできるようにパッケージとしてWeb上に公開しています。その1つに因子分析のソフト「Rパッケージ fanc」がありますが、このパッケージを活用して経済のデータを実証分析した論文があります。誰かに活用してもらえる、役に立っていると実感できるうれしさが日々の励みになっていて、もっと普及するように努めたいと思います。
そして、世界中の技術者に活用してもらえるような、そして人々の暮らしを下支えすることが叶う汎用性の高いソフトウエア開発で世の中に貢献していきたいと思います。
■アプライド製品に対する印象を教えてください
3年前から継続してアプライドのサーバーを購入しています。高校生の頃からアプライドの名前は知っていたので、初めはなんとなく問い合わせをして購入をしたのですが、例え小さなことでも困ったことやトラブルが起きると電話一本ですぐに対応してくれる誠実な姿勢に何度も接していくうちに信頼を寄せるようになりました。
今では、何か起きても“アプライドに聞けばなんとかなるだろう”とすっかり安心しきっています(笑)。