私たちの身のまわり、どこにでもあるのが水と空気です。その動き方を明らかにし、暮らしの中でより効率的な使い方を提案する研究をしています。
例えば水の場合、水道局が大きなエネルギーを使ってポンプを回していますが、各家庭に届いた時には、どうしても水の勢いが弱くなってしまいます。理由は、パイプの中を通る際に抵抗が発生するから。それはもったいないことなので、パイプの材質や形状、張りめぐらせ方を工夫したりします。他の大学の研究者は，ただの水より石鹸水などの方がスムーズに流れることを応用し、飲用でない水の中に特別な物質を混ぜたりします。
特に私が力を入れているのは噴流という流れ現象です。エアコンがつくる流れが代表例で、吹き出る冷風や熱風を素早く、部屋の隅々に行き渡らせる吹き出し方を考えるのが私の研究です。噴流には人間の咳き込みなどの呼気も含まれます。私がデスクトップ型の計算機で行なっていることのスーパーコンピュータ版は、「富岳」を使った新型コロナウイルスの飛沫感染シミュレーションです。

空気や水の流れには運動方程式があります。ある瞬間のある場所で、どれだけ早い流れが発生しているかを決定する方程式です。そもそも解くのが難しいうえ、たった1カ所だけを解いてもダメで、部屋（空間）全体のありとあらゆる所で、どんな速さの流れが到達したか、すべてわからないといけません。人間が紙とペンで計算できる問題ではないため、プログラムを使ってコンピュータで計算します。
計算スピードを上げるには、良いパーツを組み合わせた高性能なハードウェアが不可欠です。パソコンの性能とソフトウェアの処理能力によって、計算にかかる時間は大きく変わります。アプライドから導入したデスクトップ型の計算機1台でできることは、10年前ならスーパーコンピュータを使って当然の規模でした。研究室の学生たちと全員で、同時に使えることも購入時の大きな決め手で、その目的のためにコア数やメモリサイズができるだけ大きくできる仕様を選定しました。今後さらに拡張が進めば、もしかすると100人でも余裕で使える日が来るかもしれません。

航空という言葉が入っていると、カッコ良く聞こえるという理由で、機械航空工学科へ進みましたが、研究分野を流体力学にしたのは、実際に学んでみて一番、難しかったからです。身近で触れられる立場になれば、苦手だからこそ、得るものが大きいかもしれないという期待から飛び込みました。
教科書の最後のページを見れば答えがわかるのとは違い、研究では自分で用意した答えに自分で説得力を持たせます。講義の受講だけでなく、自分で積極的に取り組むことで理解がすすんだことはたくさんあります。カッコ良さと苦手意識で選ぶという判断は、間違っていなかったと思います。学生らが専門を選択する場面では、現状の得意・不得意は考えず、最終的にどれを得意な自分が一番カッコ良く思えるかで興味がある分野を選ぶといいと伝えています。

（すべての研究者がきっとそうですが）いま行なっている噴流の研究で頂点に立つのを目指しています。噴流という単語を聞いたら「あ、三重大の高橋だ！」と連想されるように。 コンピュータは、本当に信じられないスピードで進化しており、私をはじめ流体研究者は高性能なソフト・ハードウェアが続々リリースされる恩恵にあずかる立場です．そこで「流体力学でこんなことがわかったのなら、うちの分野にも」と，私の研究で恩返しができれば嬉しく思います。それの実現のために、さまざまな分野のトレンドを注視しています。工学系からかけ離れていることの方が意外で面白く、インパクトも大きいと期待しています。