【導入事例 Vol.42】
東京都市大学 教授 岩尾 徹

■経歴

中央大学大学院理工学研究科博士課程後期課程電気電子工学専攻修了。中央大学ポスドク後の2001年日本学術振興会特別研究員(PD)。この間にテキサステック大学、ミネソタ大学研究員を歴任。2004年武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部電気電子情報工学科講師。2009年東京都市大学工学部電気電子工学科准教授、2017年4月同教授。2021年4月理工学部長に就任。テレビやラジオの出演も多く、「ガリレオ」、「イノセンス 冤罪弁護士」、「パンドラの果実」、「マスカレード・ナイト」等のドラマや映画の科学監修も行っている。

■先生の研究分野、「大電流エネルギーDX」とは?

暮らしのあらゆるものが電力を使って動く時代となり、私が研究している大電流技術は、電力の発生から輸送に関して必要不可欠になっています。将来のエネルギー開発に向けて「超高温プラズマ」の研究、そして電力輸送では、保護や変電、落雷など事故対策に対するさまざまな技術が求められるようになりました。

そこで大電流エネルギーDX研究室では、生活や経済、環境など複雑に絡み合うものをサイバー空間で分析し、ナレッジ化。サイバー空間で実際に起こり得る現象を再現するデジタルツイン技術を用いてシミュレーションを重ねることで、エネルギー問題に最適解を導く研究を行っています。これまでの日本は高品質の製品をつくることで、世界におけるビジネスの最前線で活躍してきました。しかし今ではモノづくりだけでは立ち行かなくなっています。今後も世界で活躍していくためには、「ひと・もの・情報」をつなげ、デジタルトランスフォーメーション(DX)化によって、いかに先読みして人々がわくわくするような未来をつくれるかにかかっています。

■現在、力を入れている研究は?

大電流技術は、さまざまな分野で利用されており、研究も幅広いです。例えば、電力システムのエネルギーマネジメント(エネルギーDX)に関わるものでは、電力の商取引を最適化するためのアルゴリズムの開発や電力の需要と供給の最適解を導き出し、既存の発電や再生可能エネルギー、送配電技術をうまく組み合わせてエネルギー供給を行うことや、電力設備の経年劣化をAIで解析・検出する研究、落雷などによる停電を防ぐための高性能遮断器の開発など、電力エネルギーに関わるあらゆる分野の研究に力を入れています。

ほかにも放電プラズマの応用研究では、電気推進技術の研究や高輝度アークランプの開発、循環型社会に向けたエコで安全な廃棄物処理、リサイクルの技術研究を行っています。ちなみに以前はメディアでよく取り上げられていたごみの最終処分場の問題ですが、リサイクルが進んだり、清掃工場から出る焼却灰をスラグと呼ばれる固形物にしたりすることで、埋め立てるごみの量を減らせることができるようになってきました。

電力を使って効率よく金属加工をする方法についても研究しています。プラズマをコントロールし、溶接したり切断したりする研究が進められており、さらに3D金属加工ロボットとドローンを組み合わせた無人工事、建造物の将来起こり得る不具合を予測し予防保全をしていく技術開発などにも取り組んでいます。

■研究室ではどんな人材育成を目指しているのですか?

私はこれまで実験を繰り返し、世の中の事象を読み解いてきました。しかしビジネススピードが加速し続ける現代社会においては、これまでのやり方では通用しません。現状に疑問を感じ、問いを生み出す力、ひらめきがなければ、ライバルに差をつけるようなイノベーションは起こせないのです。エネルギーの研究では大電流技術だけでなく、エネルギーに関わるものとして政治や経済、経営、文化、歴史、芸術など幅広い分野の学びが欠かせません。

当研究室では、「人の上に立つのではなく、人の前に出る人間に」というモットーを掲げ、事象に対して「なぜ?」を自分の中で最低でも3回問うことで、解決できる力を養うことを目標としています。知識偏重になるのではなく、現状に疑問を持ち、ひらめきを生み出せる力を持てる人材育成を目指しています。