【導入事例 Vol.45】
大阪大学 准教授 齋藤 茂芳

■経歴

2001年東北大学医療技術短期大学部 診療放射線学科 卒業、2006年東京都立保健科学大学 保健学部 放射線学科 卒業、2007年英国マンチェスター大学大学院 理学修士課程修了、2011年東北大学医学系研究科 分子神経イメージング研究分野 医学博士課程修了、2011年~2020年大阪大学大学院医学研究科 保健学専攻 助教、2019年~2020年国立循環器病研究センター 画像診断医学部 上級研究員(クロスアポイントメント)、2020年~大阪大学医学系研究科 保健学専攻 生体物理工学講座 先端画像技術学研究室 准教授および国立循環器病研究センター 先端医療技術開発部 病態診断技術開発室 室長(クロスアポイントメント)

■先生が取り組まれている内容を教えていただけますか?

 現在の医療技術やその中で働く診療放射線技師を取り巻く環境は大きく変化しています。医療技術は日進月歩であり、その中では臨床を知り、研究ができる医療従事者や放射線技師の存在はとても大切で、大学には最先端の研究や技術に対応できる人材の育成が求められています。しかし、実際には臨床においては多くの制約があり、医療従事者や放射線技師が、病院の中で研究環境を整えることが年々難しくなってきています。基礎研究や前臨床研究を積極的に最新の医療技術開発やそれを扱う診療放射線技師などの医療技術者の教育や研究に取り入れることが大切だと考えています。今、取り組んでいるのは、高磁場MRIをはじめとした前臨床イメージング研究の基盤整備です。まず始めに2017年に前臨床用15T-MRIを保健学科に設置し、その後、2019年7月に前臨床用7T-MRIを保健学科に導入しました。さらに2019年12月に小動物用マイクロCTと超音波装置を導入しました。また、学外にはなりますが、私がクロスアポイントで兼務する国立循環器病研究センター先端医療技術開発部でも前臨床7T-MRIの管理・運用に携わっており、大動物用の64列CTなどが設置されています。関西だけではなく、国内の前臨床MRIの研究拠点になることを目指しております。
 現在、日本の臨床MRIの台数は100万人あたり50台を超えて、世界一です。臨床用MRI以外に、国内には100台を超える研究用MRIがあり、数多くの大学や研究施設で導入されています。しかしながら、これらの研究用MRIの使用頻度やその管理体制は各施設によってまちまちです。一部の施設では稼働率が高いところもありますが、臨床のMRIに比べ、まったく稼働していない施設も多くあります。その原因は様々ですが、このままでは基礎や研究用MRI分野がどんどん廃れていくのではないかと危惧しております。同じような危機感を持つ多くの研究者の方からの要望を聞く形で文部科学省先端研究基盤促進事業に提案させていただいたのが「研究用MRI共有プラットフォーム」事業になります。

■研究用MRI共有プラットフォームについて詳しく教えていただけますか?

 各大学や研究施設と連携し、各施設にある研究用MRIを多くの研究者の方々に利用していただくためのプラットフォームです。今まではMRIの専門ではない人が研究のためにMRIを使う際は、研究者自身が現地に行き、現地のMRI技術者や研究者と一緒に実験をすることが一般的でした。コロナ禍では、感染対策や感染予防の観点から人の移動を伴う共同実験や共同研究が難しくなりました。そこで、研究活動を継続するため、リモート測定などにも対応し、今までの現地での測定に加えて、専門家でなくても研究用MRIを用いて実験ができるようなプラットフォームを考案いたしました。現在、大阪大学保健学科の私の研究室を代表機関とし、量子科学技術研究開発機構、理化学研究所、熊本大学、東北大学、実験動物中央研究所、東京都立大学、明治国際医療大学、国立循環器病研究センター、沖縄科学技術大学院大学が実施機関となります。その他に産業技術総合研究所、慈恵医科大、神戸大学、帝京大学など複数の大学に協力機関として参加していただき、連携をしています。
 現在、研究用のMRI維持費や保守費はかなり高額であり、ヘリウム価格の高騰も相まって、個々の研究科や研究室で運用していくのは困難な状況になっています。また、研究用MRIを操作できる専門家は絶対的に不足しており、実験ノウハウなどの技術の共有も不十分です。コロナ禍でZOOM、Teamsなどのオンライン会議ツールやDropboxなどの用いたクラウドストレージが急速に広まったことで、遠隔地からのリモート測定やリモート実験、さらにデータ共有が可能になりました。このことで画像データの集約も容易になり、遠隔での実験や情報共有はますます進んでいくと考えています。その一方で、難易度の高い実験やどうしても現地で行う必要のある実験もあります。現地での実験の受け入れ態勢も並行して整備することで、オンラインと現地実験を有効に結び付けていくことも大切だと思っています。
 また人材育成や若手の育成もとても重要だと思っております。研究用MRIでは、臨床用MRIよりも測定の設定を細かくできますが、MRI初学者や導入したばかりの施設などを対象に本プラットフォームの熟練の研究者が遠隔や現地でサポートすることで、各施設でしっかりMRIの運用ができるような人材を育てるということも同時にしていきたいと思います。
 現在、各プラットフォームを7つの研究拠点に分けて、各施設や大学の得意な分野をアカデミックな立場から推進してもらっています。癌だったら量子科学技術研究開発機構、脳の研究だったら東北大、新しい撮影方法だったら大阪大学、心臓に関する研究だったら国立循環器研究センターで行うというように各施設の専門性をいかしながら運用しています。さらに、運営委員会では情報共有しながら、各施設でできること、できないことをすり合わせし、全体のボトムアップを図っています。MRIの稼働率が高いところと、稼働率が低いところを把握することで、それぞれの施設の特徴と状況を踏まえたうえで、効率よくMRI装置を動かすこともできると考えています。取得したデータについてもスペックの高い高価なワークステーションや画像解析ソフトもプラットフォーム間で共有することで、共同研究を推進することもでき、さらにそれぞれの施設において研究費の節約に繋がると思っています。同時に、このような取り組みをひろく広報し、多くの研究者に知っていただくことも大切だと考えています。ホームページを立ち上げ、パンフレットの作成し配布し、さらにいろいろなシンポジウムや学会で積極的に本プラットフォームの紹介を行っています。多くの研究者にとって少しでも研究用MRIを使う敷居が低くなればと思っております。

■世界に先駆けた試みとは?

 世界的には研究用MRIや前臨床MRIの研究分野はますます発展しています。海外では研究用生体イメージングの研究拠点として多数の集約型拠点が設立されています。欧米では米国NIH、仏CEA、独Max Planckや、中国のCAS、韓国のIBSなででも活発に研究が行われています。複数のMRI装置やPET、CT、さらに光イメージングなどの他の生体イメージング装置が1つの施設に集中してあることも多く、一方で日本ではなかなかそのような環境や施設を作るのは難しいとは思っています。自分のパソコンを使って遠隔でMRI操作やMRI実験への参加できる環境を構築することで、MRIがあたかも自分のラボにあるような感覚で実験が行えるようにしたいなと思っております。実際、動物の管理やセッティングに現地に1人は必要なのですが、専門家である必要性はありません。動物実験の補助ができれば大丈夫ですので、学生や動物テクニシャンの方でも良いと思っております。測定データもDropboxなどのクラウドに上げることで、迅速に結果を確認し解析できますし、さらにコロナ禍のような状況でも、実験室内の蜜を避けられるような副次的な効果もあると思っております。現地の実験をより有効なものにするために、予備実験を遠隔で行って、本実験などを現地でという使い方もあるかなと思います。このようにDX(デジタルトランスフォーメーション)を応用し仮想空間での全国規模の共有MRIネットワークは世界に先駆けた取り組みだと思います。 
 国からの助成期間は昨年2021年から5年間です。このサポートがある間に1台1台のMRIの稼働率を上げて、それぞれの施設や機器が連携していることをアピールし、論文等にMRIデータどんどん使っていただいて、研究用MRIが基礎研究や医学研究に重要なピースだということを多くの方に知ってもらいたいです。今、10施設入っていますが、協力機関を合わせると20施設になります。これから、もっと広げていきたいと思っています。一昔前は、MRIなどの大型機器は自分のラボや施設で抱え込み、独占的に使うことも多く、外部の人に積極的に開放することは少なかったのかと思います。私たちは自分のラボだけでこのMRIを抱え込み、研究を完結させるのはやめようと思っています。MRIというのは日進月歩で、毎年新しい装置や新しい技術が出ます。それを毎回買い替え、技術を導入することもコスト面を考えてもかなり大変だと思っております。装置を管理している立場だからこそ、その測定技術や測定精度を磨くことと合わせて、MRI装置に依存せずにできる研究を立案し、いろいろな分野に手を伸ばして研究を展開していくことが大切だと思っています。

■弊社のサービスをどのように利用されたか教えていただけますか?

 アプライドさんには、パソコンや解析用ハイパフォーマンスPC購入やソフトのライセンス契約、ホームページ作成からパンフレット作成まで幅広くお世話になっています。このプラットフォームの予算を獲得したときに、ホームページ作成、リモート設備、情報の発信をしていく上で、どこかに依頼しなくてはいけないと思い、アプライドさんにホームページ作成から広報資料の作成まで多くのサービスをお願いしました。まず初めに取り組んだのが、ホームページのロゴを作成です。ロゴは、研究用MRI、前臨床MRIをモチーフにしているのですが、ちょうど事業開始が2021年7月だったこともあり、東京オリンピックのピクトグラムからヒントを得て、シンプルなデザインにしていただきました。何より担当者が何度も足を運んでくれて、相談にのってくれたのが助かりました。ロゴはこれ以上ないくらい気に入っております。本プラットフォームにとってアプライドさんは欠かすことのできない役割を担っていただいております。これからもいろいろな場面でサポートをお願いできればと思っております。