【導入事例 Vol.49】
大阪大学大学院 准教授 矢地 謙太郎

■経歴

2010年京都大学工学部物理工学科卒、2013年京都大学大学院工学科研究科機械理工学専攻修士課程修了、2016年3月京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻博士後期課程修了、同年4月大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻助教、2024年1月同研究科准教授に就任。2022年日本機械学会設計工学・システム部門表彰(フロンティア業績表彰)、2023年には日本計算力学連合日本計算力学奨励賞など、受賞歴は多々。

■先生が取り組まれている研究はどんな内容でしょうか?

 私が取り組んでいるのは、トポロジー最適化といって、構造物の最適な形状をコンピュータを駆使して導き出す研究分野です。トポロジー最適化に興味を持ち始めたのは、学生時代、ボート(ローイング)競技の選手をしていたのですが、常々オールの形が最適じゃないなと感じていました。数学的にベストな形だったらもっと早く漕げるのではないかと考えていました。以来、何かものには最適な形があるはずだと思い、コンピューターで解析し、最適な形状を見つけ出すトポロジー最適化を研究しています。ちなみにトポロジーとは位相幾何学ともいい、穴の数がいくつあるかなど、連続的な変形によって変わらない特性を研究する数学の分野です。これに対しトポロジー最適化は、本来の数学的な意味のトポロジーを発端としている訳ではなく、主に工学的な目的に対して構造物の最適な穴の数と形を見出す方法論として研究が行われています。

■トポロジー最適化についてもう少し詳しく教えていただけますか?

 人間の想像だけでは思いつきそうにもない最適な形をコンピューターで導き出すことができるのがトポロジー最適化です。例えば、自転車のフレームならもっと軽くて強い構造を見出すことができ、さまざまな分野で求められる最適化構造をコンピューターによって見つけ出すことが可能となります。3Dプリンターと相性がよく、さまざまな設計に利用されているのも特徴です。私が精力的に研究している熱流体機器の最適設計では、冷却性能を最大にする流路構造をトポロジー最適化によって見出すことが可能です。また、電池デバイスの最適設計では、レドックスフロー電池のトポロジー最適化についても研究を進めており、電池の中で電解液をどのように流すのが最適な構造なのかを探求しています。電池デバイスを対象としたトポロジー最適化はまだまだ研究段階で、実用化に至ってはいませんが、従来型と比較するとおよそ2倍程度、電気化学反応の効率が向上することを数値計算上ではありますが確認しています。今後は、電池としての性能を実験的に検証していく必要性はありますが、世の中に変革をもたらす技術として結実すると信じ、研究に励んでおります。
 どのような形にすれば最適なのかをコンピュータによって探索していく中で、トポロジー最適化は最も自由度が高い構造最適化であると言われています。構造最適化は大別すると三つあり、まず、寸法最適化があります。形状そのものが大きく変化するのではなく、寸法を調整して、最適化を行います。次は形状最適化。外形形状を変化させて最適化を行います。寸法最適化に比べ自由度は高いですが、基本的に最初に設定した穴の数は変わりません。そして、最も自由度が高いトポロジー最適化。形状だけなく、穴の数も変化する最適化です。形状のバリエーションは格段に広がり、斬新な形状を生み出すだけでなく、新たな機能までも生み出す可能性を秘めているのです。

■弊社から購入いただいたworkstationはどのように活用されていますか?

 このような最適化の研究を行う場合、コンピューターが高性能でないとできません。演算スピードが早いCPU、容量が大きなメモリも必要です。コンピューターが進化し、かつリーズナブルになってくれたおかげで、トポロジー最適化の研究が世界的に加速してきています。研究者としてはいかに限られた予算で性能のいいコンピューターを購入するか…という最適化を考えるのです(笑)。アプライドさんの製品はかなり最適解に近い。特に、中規模のワークステーションに関しては使い勝手もよく、価格も研究者に優しいため、ここ数年はアプライドさんにお世話になっています。

■今後の展望についてお話していただけますか?

 最近よく耳にするAIの中心的技術である深層学習を利用して、データ駆動型の新しいトポロジー最適化に関する研究にも取り組んでいます。
 従来のトポロジー最適化はAIを使用せず、ざっくり言うと、ピクセルの色の濃さを変えながら最適な形状を探索していきます。この時、トポロジー最適化は自由度が高すぎるがゆえに、実はその適用範囲はそれほど広くなく、特に扱う問題の非線形性が高まるほど最適解を見つけるのが格段に難しくなります。この根源的な課題に対し、最近の我々の研究グループではAIを使った新しいトポロジー最適化の枠組みを提案しています。この構想を実現するための鍵となる技術として、生成AIを活用します。トポロジー最適化で得られた様々な形状を入力データとして学習した生成AIに新しい形状を生み出させ、優秀なものだけを残し、またAIに学習させ、さらに優秀な形状を生成させていく、というのを繰り返していくことで、最初に用意したデータ集合を極限まで進化させていくのです。これは生物の進化を模した最適化手法として知られる進化的アルゴリズムの一種とも考えており、様々な角度から枠組みの洗練化に取り組んでいます。
 従来は要素ごとのピクセルの色を変えていく、いわゆる感度情報に従って形状を更新していくのですが、我々の提唱する生成AIを活用した進化的アルゴリズムでは感度情報を取得する必要がないため、ある設計対象に対し数値シミュレーションさえできれば最適解を導き出すことが可能となります。ただし、複数の解候補を同時に評価し進化させていくため、膨大な計算量を要します。一方で、最近のコンピューターはものすごく発達していて、1CPUで128コアのものも出始めているため、独立した計算を膨大に処理する必要がある我々の進化的アルゴリズムも、効率的に実行することができるのです。
 あと、最近注目しているのは量子コンピューターです。まだ解ける問題は限定的とは言われていますが、いずれはトポロジー最適化を含む様々な最適化問題を高速に解ける時代が来るのではと期待しています。
 最後に、我々の研究室では、学生達が主体となってどんどん新しいことに挑戦しています。トポロジー最適化は工学だけでなく、生物分野といった様々な分野においても展開できる可能性を秘めているので、今後の進展を期待していただきたいですね。